用語集

用語

A~Z
アロディニア(allodynia)
慢性痛に特徴的な痛みで、触れただけでも痛む異常な痛み。触覚を伝える感覚受容器の興奮によって痛みが起こるようになる。
異所性放電
感覚受容器の興奮を介せずに神経切断端などで発生するスパイク放電。
一次痛、速い痛み
針で刺した時などに感じるチカッとした痛み。痛みがいつ、どこで起こったかなどについての情報を正確に脳に伝える。
炎症メディエータ
炎症を起こした部位で作られる物質。ブラジキニンは発痛物質、プロスタグランジン、セロトニン、ヒスタミンなどは痛み増強物質として働く。
オピオイド(opioid)
語の意味は「オピウム(opi)のような(oid)」であり、モルヒネ様の物質を意味する。
学際的痛みセンター(Multidisciplinary Pain Center)
痛覚系の可塑性によって生じる多面的な慢性痛の治療のため、精神療法、理学療法を含む臨床各科および基礎医学が密接に連携して痛みの治療・研究・教育に当るセンター。世界各国で整備が進んでいるが、日本には未だない。
可塑性
物体に力を加えて弾性限界を越えた変形を加えた時、外力を取り去っても歪みがそのまま残る現象、または性質。痛み系では、持続する過大な痛み入力により、神経系の構成要素、構造に正常時にはない歪みを残す。
カプサイシン
唐辛子の辛味成分。侵害受容器に特異的なカプサイシン受容体(VR1=TRPV1)に結合して灼熱痛を起こす。この現象は高濃度のカプサイシンを繰り返し投与により脱感作され、侵害受容器ニューロンを特異的にブロックする方法としても用いられる。この受容体チャネルは熱刺激、酸刺激にも反応する。
関連痛
深部組織からの異常感覚が皮膚分節上に投射されて感じる痛み。深部入力が同じ脊髄分節内の皮膚入力をもつニューロンに収束し、促通されることにより生じる。
急性痛
組織の傷害によって活動する痛覚受容器の興奮が中枢に伝えられて生じる、症状としての生理的な痛み。
警告信号・防御系
異物を認識し(免疫系)、それらを排除する(炎症系)働きをもつ細胞・液性情報系、および、それらに続いて発生して、組織の傷害を神経情報として脳に伝える痛み系は生体が生きていくために最も基本的な役割をもつ。
ゲートコントロール説
1965年にMelzackとWallが提唱した痛み学説。脊髄から脳へ痛みを伝えるニューロンの活動は末梢からの太径と細径求心神経のシナプス前部における相互の干渉によって生じるという説。実験的根拠に誤りがあったがその考え方は面白い。
幻肢痛(phantom (limb) pain)
手や足を切断した人が、消失した手や足の部分をまだ存在するかのように感じ、そこに痛みを感じること。
高閾値機械受容器
触れたような弱い刺激には反応しないで、針刺しのような組織を傷害する強い刺激だけに反応する感覚受容器。一次痛を伝える。
交感神経依存性痛(sympathetically maintained pain,SMP)
交感神経系遮断薬によりブロックされる痛み。交感神経系により感覚神経系が興奮することを示す。交感神経系遮断薬によりブロックされない痛みはSIP(sympathetically independent pain)と呼ばれる。
後根神経節(dorsal root ganglion,DRG)
末梢感覚神経の細胞体が集まった神経節であり、この細胞体から脊髄へは後根線維、末梢へは感覚神経線維が延びる。病態時はこの細胞体自体が興奮性を示すことがある。
硬膜外ブロック(epidural block)
硬膜外腔に局所麻酔薬を注入して脊髄神経をブロックする方法。一部は硬膜を浸透して脊髄腔内に達して脊髄にも作用する。
先取り鎮痛(preemptive analgesia)
痛みが続くことによって生じる可塑的な変化を予防するため、手術前に充分に鎮痛処置をとること。
シクロオキシゲナーゼ(COX)
生体内でプロスタグランジンを合成する酵素。古くから用いられているアスピリン系薬物はこの酵素作用を阻害して末梢性鎮痛薬として作用する。最近、組織に常在するCOX-1型とは別に、炎症時などに誘導されるCOX-2型がクローニングされた。
自発痛
外から刺激を加えないでも起こる痛み。誘発痛と区別する。その痛み表現から診断の手がかりが得られることがある。
受容体
生体膜上または細胞液中にあって、ホルモン・抗原・外来性の物質あるいは光・圧力など物理的刺激を認識し、細胞に応答を誘起するタンパク質の構造体。
受容野
感覚神経が末梢において刺激を受容しうる空間的広がり。
侵害受容器 (nociceptor)
侵害(noxious)刺激(組織を損傷するに到るような刺激)に反応する感覚受容器;痛覚受容器
神経栄養因子
ニューロンの発生、分化、成熟、再生にかかわる各種のタンパク群(NGF, GDNF, BDNFなど)。それぞれ特異的な受容体に結合して作用する。ニューロンの種類により特異的に作用する。NGF, GDNF, BDNFの項参照。
神経性炎症
逆行性刺激や軸索反射により、神経ペプチドが神経線維末端から遊離され、その周囲の血管にはたらき、血管拡張、血管漏出などの炎症様反応を呈する。
神経ペプチド
神経細胞内で合成されるペプチド(アミノ酸の連鎖化合物)で、最下等動物である腔腸類の神経系にも存在する。サブスタンスP、CGRPなどはポリモーダル受容器ニューロンにも存在し、このニューロンが興奮すると脊髄の中の終末部から遊離され、痛みを脳に伝えるのに働く。また末梢組織にある終末部から遊離されて周囲の細胞に働き、炎症やその他の反応を引き起こす。
セカンドメッセンジャー
受容体で受けとった情報の細胞内での伝達に働く物質。cAMP・cGMP、Caイオン、タンパク燐酸化酵素(PKA・PKC)など。
脊髄後角膠様質(substantia gelatinosa)
後角の第II層(Rexedの脊髄層分類、後出)に当たり、求心性C線維終末と小細胞からなり、侵害受容に重要な部位。
脊髄視床路(spinothalamic tract,STT)
脊髄ニューロンから直接視床へ投射する神経線維の経路。頚髄以下からは反対側の視床へ投射する。痛み情報を視床へ伝える最も重要な経路。
先天性無痛症
遺伝性疾患で、痛みを感じないために一寸した怪我や体の異常に気付かず、手や足の切断を繰り返す。若年で死ぬ場合が多い。
中脳中心灰白質(periaqueductal grey matter,PAG)
内因性(脳内)鎮痛機構(後出)の一つとして重要な役割をもつ部位。ReynoldsがラットのPAG電気刺激で無麻酔手術を報告(1969)したことで有名。二次痛の経路からの痛み入力をもつ。
内因性(脳内)鎮痛系
オピオイド(モルヒネ様物質)、ノルアドレナリン、セロトニンなどの伝達物質の働きによって痛みを抑制する中枢神経系。
二次痛、遅い痛み
痛む部位や期間がはっきりしないズーンとした痛み。
ニューロパシー性疼痛(neuropathic pain)
神経の損傷(炎症や切断など)後に生ずる痛み。慢性痛の一種で痛みの中枢経路に可塑的な変化をきたして生ずる痛み。
発芽(sprouting)
損傷を受けた神経線維の断端は、修復機転として伸長する。発芽部の膜には正常時とは異なるイオンチャネルや受容体が発現し、異所性興奮を示す。
ヘルペス後神経痛(post-herpetic neuralgia,PHN)
帯状疱疹が治癒しても後遺症として生じる強いニューロパシー性の痛み。
ポリモーダル受容器(polymodal receptor)
機械的、化学的および熱刺激のいずれにも反応し、その活動は炎症メディエータによって著しく強まる。感覚受容器であるが、その興奮に伴って末端からペプチドを放出し、効果器としての働きも示す原始的で未分化なニューロン。二次痛を伝える。
慢性痛(chronic pain)
組織の傷害によって起こる急性痛とは異なり、強く持続的な痛み入力やニューロパシーによって引き起こされる、痛み神経回路の可塑的変容による痛み。
BDNF(brain-derived neurotrophic factor)
脳由来神経栄養因子として、主に中枢でtrkBを介してはたらく。Aβ感覚神経の発生、成熟、再生などに関与し、ニューロパシー時の脊髄内の可塑的変容に関与する。
c-fos
最初期遺伝子。ガン遺伝子として見出されたが、タンパクの産生時に転写促進に働く。
CRPS(Complex Regional Pain Syndrome)
従来、RSD(反射性交感神経性ジストロフィー)およびカウザルギーという病名で呼ばれていたものを、国際疼痛学会が前者をCRPS type-I、後者をCRPS type-IIとして総称した。ともに交感神経系の関与を示す症状である場合が多い。
cytokine
免疫細胞、線維芽細胞、間質細胞などから遊離されるインターフェロン、インターロイキン、TNFなどの各種の低分子糖タンパク質の総称。それぞれ特異的な受容体を介して作用する。痛み系は、警告信号防御系(前出)として先住する免疫系がもつこれらのシグナリングを色濃く取り込んでいる。
DNIC(diffuse noxious inhibitory controls)
広汎性侵害抑制調節と訳されているように、皮膚、筋、内臓などの組織に侵害性刺激を加えた際に全身性に痛覚抑制が生じる現象。おそらく、鍼鎮痛機序と同様に、ポリモーダル受容器を入力とする脳内鎮痛系の賦活によって生じると考えられる。
fifth vital sign
第5番目の生命徴候としての痛み。2001年よりアメリカでは全ての患者で、脈拍、血圧、呼吸、体温に次ぐ5番目の生命徴候として痛みを測ることが義務づけられた。
GDNF(glial cell line-derived neurotrophic factor)
グリア細胞由来神経栄養因子として受容体(ret)にはたらいて、神経ペプチド非含有性の小型感覚ニューロンの増殖、分化、成熟に関与する。
hyperalgesia
痛覚増強。痛覚系の過剰な興奮状態。
NGF(nerve growth factor)
神経成長因子。神経栄養因子の一つで、最初は交感神経系の生存に必要であることが見出されたペプチド。発生が同じである痛覚ニューロンの働きにも深く関わっている。シュワン細胞、線維芽細胞、角質細胞などから遊離され、神経ペプチドを産生する侵害性ニューロンにあるtrkA受容体に結合して取り込まれ、細胞体へ運ばれ痛覚増強因子として作用する。
NMDA受容体チャネル
神経細胞膜に存在し、持続的な痛みによって活動する興奮性イオンチャネル。脳における記憶の原型機構にも関係することが知られている。
NSAID
nonsteroidal anti-inflammatory drug(非ステロイド抗炎症薬)の略。COX(前出)を抑制し、プロスタグランジンの生成を阻害して抗炎鎮痛作用を示す。例えばアスピリン、イブプロフェン。最近、炎症により誘導されるCOX-2をより選択的に阻害するコキシブの開発が進んでいる。
Rexedの脊髄の層分類
Rexedは神経細胞と神経線維の存在パターンから脊髄の灰白質を10層に分類した。
Schweitzer
アフリカに病院を設立し、原住民救済に後半生の全てをささげた医師で、1952年ノーベル平和賞を受賞。
   "We must all die. But that I can save him from days of torture,
   that is what I feel as my great and ever new privilege.
   Pain is a more terrible lord of mankind than even death itself" -Albert Schweitzer-
sensitization
先行する刺激(状態)によって反応性が増加していること(感作)。逆の現象はdesensitization(脱感作)。
VAS(visual analogue scale)
ヒトの主観的な痛みを線分の長さを用いて数量的に評価する方法。痛み0から最も痛いと想定される痛み10または100までの線分の中で、現在感じている痛みをポイントするもの。一種の視覚と痛覚のクロスマッチング評価となる。各個人により最大の痛みの設定も異なるなどラフな方法ではあるが、ある程度の痛み評価ができ、簡便であるので、よく使われている方法である。
von Frey 毛
ドイツの生理学者von Freyが考案した触・痛覚を評価する機械的刺激器具。長さ、または太さの異なるフィラメントの弾性の差を利用して受容野に一定の加重をかける。
WDRニューロン(wide dynamic range neuron)
広作動域ニューロン、すなわち弱い刺激から侵害レベルの刺激まで幅広い刺激強度に応ずる脊髄後角ニューロンであり、特異的侵害受容ニューロンとは別の侵害受容系としてはたらく。
wind up
繰り返し刺激により脊髄ニューロンの反応性が次第に増大する現象。WDRニューロンで特徴的にみられ、多シナプス回路の促通現象である。持続的な痛み入力による脊髄痛覚系の興奮性の増大をもたらす機序をなす。
withdrawal reflex
引っ込め反射、逃避反射、屈筋反射。四肢の皮膚を強く刺激すると、その肢を引っ込める反射。痛み系から屈筋ニューロン群への多シナプス反射であり、動物での痛みの評価に用いられる。
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